白い恋人たちのフランス

 先週は東京でも寒い日が続いて、ほんの少し雪がパラついたりもした。そんな中で選んだのが、フランス、グルノーブルの冬季オリンピックに取材した『白い恋人たち』のテーマ音楽。この映画、ちゃんと見てはいないし今も配信で見ることもできないのだが、どこで見たのか断片的に見た記憶はある。大昔、テレビででも見たのだろうか。今から見ると地味というか素朴なオリンピックを撮っているのだが、今で言う「ノーナレ」というのか、ナレーション無しで映像で見せるスタイル。ただし、その分音楽のウェイトは大きく、このテーマ曲もずいぶんよく耳にした記憶がある。

 そもそも、クロード・ルルーシュ監督とフランシス・レイというコンビは「ダバダバダ」で有名な『男と女』(1966年)のヒットで世界にその名を知られた「おフランスな」コンビだ。私自身は世代的にこの時代の映画を「名作」として観た世代だが、ヌーヴェル・ヴァーグだったりフレンチ・ポップスだったり、なんかお洒落でカッコいいフランスのイメージを、この頃の映画や音楽が増強したことは間違いない。もちろん、日本での「おフランス」という意味で。

 ただ、この曲を弾くにあたってちょっと調べて知ったこの映画の公開年、1968年という年は、ちょっと素通りできなかった。私は日本で大学を卒業後にフランスに音楽留学してギターを学んだが、その滞在中にそれなりにフランス文化についても学んだり感じたりすることができた。もともとフランスに憧れていたわけでもなく、お洒落な人間ではもちろんなく、フランス語を学んだことも学ぼうと思ったこともなく、つまりフランスにはほとんど関心がなかったのだけれど、ちょっとした縁というよりはなにかの間違いでパリに渡って音楽を学ぶうちに、嫌でもフランスについて少しは知るようになった。そんな中で知ったのが、「1968年世代(soixante-huitard)」という言葉だった。

 1968年にパリで起きた5月革命に思想的・文化的に強い影響を受けた世代、大まかに言えばそんな意味か。具体的には、たとえば丁寧な二人称より親しい二人称を積極的に使ったり(tutoyer)、堅苦しい礼儀作法をあまり重んじない…といった文化的特徴を見せる。日本で言えばほぼ団塊世代(狭義では1947年から1949年生まれ)に当たる世代、現在70代くらいになる人たちだ。もちろん、その世代の人たちすべてが「1968年世代(soixante-huitard)」なわけではなく、反権力・反体制的な思想に色濃く影響された人たちを指す、のだと思う。そういう意味では、「全共闘世代」が近いのかもしれない。

 ともかく、そんな風に呼ばれる世代があることを知り、1968年に起こったことをいくらか知るようになると、フランス社会の見え方も少し変わったりもした。私は学者でもないし、遠い昔に数年パリに住んだだけで偉そうなことは何も言えないけれど、日本での学生運動が大いなる熱と挫折をもしかしたら今も引きずっているのと同じように、1968年に世界各国で起きた学生を中心とする変革の動きは、その後のそれぞれの社会にそれなりの爪痕を残したのかなと今でも時々思う。それほど大きな熱量を持った運動だっだのかな、と。

 そんな68年に作られたオリンピック映画だった『白い恋人たち』、オリンピックはいつの時代も体制派のものと見なされるわけなので、監督のクロード・ルルーシュは長く「体制派」のレッテルを貼られた、とWikipediaに書いてあった。さもありなん。けれど、『男と女』に登場して主題歌も歌い、『白い恋人たち』でも歌っているピエール・バル-は、日本の音楽界にも強い影響を与えているし、影響を受けた人は音楽家にとどまらないだろう。「体制派」というレッテルは当時も今もあまりカッコいいものではなく、「権力の犬」といった言い方に近い、揶揄する意味合いで使われるのが常だろう。映画に詳しいわけでもないので、クロード・ルルーシュ監督について語るつもりはまったくないけれど、ただ、そういうレッテルはいつも後から見るとあまり意味がないかな、と思ったりもする。

 オリジナルサントラ版のこの曲を聴くと(そういうのが簡単に聴けるストリーミングの時代は本当に楽しい!)、「イージーリスニング」というジャンルを思い出してしまい、あれは何だったんだろうなんて考え出すとまた妄想が止まらなくなるのだけれど、それはまた気が向いたら考えをまとめて文章にしてみようか。『白い恋人たち』でこんなに一くさり文章が書けるなんて、思わなかったかな。最後にもう一言、この映画の原題、”13 Jours en France” の意味は「フランスでの13日間」という愛想のないもの。おそらくは『男と女』の大ヒットを受けて付けられた邦題なのだろうけれど、それに『白い恋人たち』というタイトルを付けるセンスが、また楽しいですね。

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